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【国・ミ】ネタバレ「蝉」登史草兵

  • w-pegana
  • 2015年12月13日
  • 読了時間: 5分

※本ページはネタバレありです!

①「私」が砦山に佇む邸へと向かっていると、一匹の蝉が案内をするかのごとく先を行きます。

これを見た「私」は、蝉が好きだった母を思い出し、行く先に不安を覚えるのですが…。

②邸へ着くと、そこには埃の積もっていない椅子や、足跡など、つい最近誰かが利用したかのような痕跡が見つかります。

当然、母との忌まわしき過去が脳裏から離れない「私」は、それを見て母がいるのだと感じます。

③そこからは回想シーンに入り、(亡き夫を想ってなのか、純粋に我が子を想ってなのか不明ですが)息子を撫でる母の手つきには、親子以上の情が「私」には感じられた。

そして、「私」も歳を重ねると、そこに快楽を覚えてしまう。

④若き日の「私」は理性と情念の葛藤を感じ、そんな母を拒絶します。

あるとき、結婚を考えるほどの女性がいることを母に打ち明けると激しい口論になります。

いつか相応しい人が見つかれば一緒になると云う「私」に対する母の最後の台詞、

――「いけません。たとえ私が死んだ後でも!」(P.297)

は、この物語全体を表す台詞と云ってもいいでしょう。

⑤夢(回想)から醒めた「私」は母の幻(?)を見て、その言葉に焚きつけられ、寝室で眠る母を拳銃で撃ちます。

しかし、母と思われたその女性は、実は失踪していた妻・螢子で、彼女は何者かに拘束されていたのでした。

邸へと向かう途中に見た、母の化身かと思われたあの蝉は、実は身動きとれぬ螢子が、自身の居場所を報せるために寄こした使いなのではと思い、母の計略とはいえ自らの手で愛する妻を殺してしまったことに嘆きながら涙します。

⑥と、再び目覚めた「私」は、妻を殺したこの記憶が夢だったのではと、一抹の希望を抱きながら、件の寝室へと行ってみると、そこには妻も母の姿もなく、一度は安堵こそしたものの、ベッドには血の跡があり、その中には針で刺し貫かれた一匹の蝉がいるのでした。

狂気とも云える母の愛情が、いま一度そこに息づくのを感じた「私」は、ポケットに入った拳銃を握りしめ物語は幕を閉じます。

本格ミステリというよりも、幻想文学、怪奇小説に近い作なので、超自然現象が合理的に解き明かされるわけではありません。

(本サイトで「ミステリ」にカテゴライズしているのは、アンソロジーに「ミステリー」とあるため)

なので、主人公の見る母の幻や、誰が螢子を拘束したのか、そして死体はどこへ行ったのか、(また、上では書いていませんが、最後にはシャンデリア(?)が勝手に付くシーンも)などの展開を説明しようとすると難しいです。

…が、ここからは持論なのですが、おそらくは本作は母の狂った愛情によって歪められた「私」の作り出した幻想、つまりはいわゆるサイコオチなのではと思います。

というのも、途中気になる記述が出てくるからなのです。

(P.294(双葉文庫・中島河太郎編『怪談ミステリー集』))

――この他に寝室が残っているが覗く気にはなれなかった。不愉快な汚染(しみ)が残されているのだ。

(括弧内の読みの追記は引用者による)

ここで云う汚染というのは、少しアレな話ですが、母の体液だとかとも取れそうですが、果たしてそれで汚染という汚染ができる(残る)のかは疑問です。

また、一読したあとならば、この汚染が「私」によって撃たれた螢子の流した血とも取れるのですが、この引用文が出てくるのは、上記あらすじの②なのです。

もし、この小説が回想シーンを除いて、時系列順に並べられた話であるならば、当然②の段階では、血痕があるはずがないのです。

この点、私は一度、この小説は入れ子構造を採っているのではと考えました。

「①~④」「⑤」「⑥」という3つのセクションに分かれていて、

(i)「①~④(現実)」「⑤(夢)」「⑥(現実)」

(ii)「①~④(夢)」「⑤(現実)」「⑥(夢)」

のどちらかなのではないかと。

(「夢」は「過去」とも置き換え可能)

夢から目覚める演出を二度も取り入れていることから、この考えはいけると思ったのですが、もうひとつ難点があります。

それは⑤、⑥のいずれにも、母の幻やシャンデリアが勝手に付くという怪奇現象が起きていることです。

わざわざ、入れ子構造を採るのであれば、徹底しなければ意味がありません。

例えば、(i)であれば、母の幻や妻の拘束などは夢だったで説明ができますし、死体消失についても端からそんなものなかったのだと考えられますが、シャンデリアが勝手に付いたことは現実世界での出来事となってしまいます。

汚染の記述の問題と、様々な現象の問題の双方をクリアし、かつラストシーンに上手く繋がるのはサイコオチなのではないでしょうか。

②の「汚染」というのは、かつて母を殺した際にできたもので、

(作中では実際に主人公が母を殺していますが、毒によるもので、かつ葬儀なども済ませたようなので、銃で撃ち殺したのは変ですが→歪曲された記憶?)

「私」の見た母の幻も拘束された螢子も、シャンデリアの謎も、すべて主人公の頭の中での出来事であり、ラストにこれを悟った「私」は、その頭を撃ち抜くのでは。

(云っていて、結構苦しい…)

個人的に作中作が好きなので、上記の三番目の可能性として、

(iii)「①~④(現実)」「⑤(夢)」「⑥(さらなる夢)」

というパターンも考えられますが、サイコオチとあまり変わらなさそうですね…。

怪奇もの、幻想ものに絶対的な答えを求めるほうが間違っているのかもしれません。

答えは出せず終いですが、不思議な魅力のある作品でした。

 
 
 

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