【国・ミ】ネタバレ『蛇行する川のほとり』恩田陸
- w-pegana
- 2015年12月23日
- 読了時間: 5分
※本ページはネタバレありです!
紹介ページで、この小説は月彦と暁臣という2人の少年が全編に亘り登場しているにも関わらず〈少女たちの物語〉なのだと書きました。
まずはここから見て行きたいと思います。
月彦は分かりやすいです。
「ギラギラしてストレートな、どこか稚なく危なっかしいものを抱えた男の子(P.33)」とあるように、本作において月彦は徹底的に男性的なキャラクターとして描かれています。
また、本作は章ごとに少女たちの間で視点が変わりますが、いとこの香澄を除けば、毬子、芳野、真魚子の3人とも彼に恐怖心や理解不能さなどを感じています。
過去においても、睡眠薬を香澄の母に内緒で渡していたことに対し責任を感じ、彼自身は自分も関与していたと考えているようですが(「俺にも関係していることなんだ」(P.301))、かなり間接的にと云うか、他のキャラに比べかなりその程度は低いです。
この小説は、過去の事件を共有する人たちの物語と見ることができますが、私には上記の理由から、月彦はこの輪から除されているような気がしてなりません。
どこまでも男性的に描かれた月彦が、その輪から排斥されているとすれば、それは総ての男性もまた同じと考えることができるのではないでしょうか。
次は暁臣です。
見た目も雰囲気もどこか中性的な暁臣は、一見物語の中心へと踏み込んでいるようにも思えます。
毬子に関して引き金を引いたのも彼ですし、音楽堂での事故にしても、彼の引っ張っていたロープに毬子が躓いて起こったのですから、故意ではないとは云え彼の罪は大きいです。
しかし、成長するにつれ彼は、この事故によって亡くなった姉と同化していきました。
歳を重ねるごとに姉に似ていきます。
つまり、暁臣は女性化しているからこそ物語の核へと踏み入れたのであり、やはり彼にしても純粋な少年(男性)のままでは、それは為せなかったのです。
彼らを見れば、この物語の輪(核)から「男性」が排されていることが分かります。
よって、この小説は〈少女たちの物語〉なのだと私は思います。
「少女」と「女」が対比されていたり、あるいは「大人」もまた「男性」と同じように除外されているのも分かります。(該当ページは「ネタバレメモ」を参照してください)
さらに本作の面白い点は、章ごとに視点が変わることです。
そして、上記の物語の輪(核)へと踏み込む少女が増えていき、終盤はまた減っていくことも面白いです。
第一章、毬子視点では香澄と芳野は(これは真魚子の言葉ですが)「二人だけで完結」されたような関係で描かれています。
他の人が入り込む余地を与えないような、完成された関係がそこにはある、と。
しかし、第二章で芳野視点へ移り変わると、思いのほか彼女は香澄との仲に不安を感じていることが分かります。
月彦に云われて香澄の絵を一枚も書いたことがないと気づき、また、急に香澄と毬子が仲良くなればそこに嫉妬さえ感じてしまいます。
紹介ページで〈少女たちの物語〉とは、「完成された関係性を持った少女たちが出てくる物語」と述べましたが、「完成された関係」とは絶対的なものではないとも書きました。
ある視点から見れば完全であっても、位置が変われば(あるいは、その輪の中に入ってみれば)、同じようには見えないのです。
それはそうです。
人と人ですから、完全などないのだと思います。
これは毬子と真魚子にしても同じことが云えます。
毬子からは、いち早く「外の世界」に出て行くことのできる真魚子といつまでも扉を開けずにいる自分とが釣り合っているように見えています。
憧れの香澄に合宿へ誘われると同時に、何となく不穏な空気を感じる彼女が、真魚子をモデルに呼んだらどうですか、と提案していることからも、毬子から真魚子への信頼が窺えます。
しかし、第三章の真魚子視点になってみると、彼女も芳野と同じく、自分たちの関係や香澄たちの輪の中へ毬子が加わることに不安を感じています。
その彼女も、事件の詳細を聞き、香澄たちの輪の中へ自ら入っていきます。
〈少女たちの物語〉に出てくる少女たちは、あまり自分たちの中に生じた問題を外へ出したがらない、と紹介ページで書きました。
やはり芳野は真魚子を輪に加えるか悩んだでしょう。
それでも、レモネードとレモンスカッシュの違いをすんなりと答えた真魚子に、自身と香澄の関係に似たものを感じ、彼女を迎え入れたのではないでしょうか。
こうして4人の少女の物語へと発展していった話は、今度は徐々に人数を減らして行きます。
真魚子はもちろん、毬子にしても過去の事件に大きな関わりを持たないことが判明し、香澄と芳野の2人の話へと変化していきます。
しかし、終章で香澄によって語られる真実は、結局芳野にも伝わることはありませんでした。
母との約束を守ることで少女ではいられなくなったその感情を、彼女はずっと一人で抱えてきました。
ですが、毬子に話したことで彼女は幾分救われたのかもしれません。
翌朝、芳野に「愛してる」と、云いたかった言葉を告げた彼女はどこか晴れ晴れとした様子でした。
そんな彼女の気持ちが語られる最後の2ページはたまらなく印象的です。
とても好きな作品だけに長くなりました。
〈少女たちの物語〉、思いの外うまく表現できませんでしたね…。
男の私には、きっとこの小説にあるものは十分に理解できないのかもしれません。
しかし、どことなく読者を引きつける不思議な力のある、そんな作品でした。
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