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【海・SF】「限りなき夏」クリストファー・プリースト

  • w-pegana
  • 2016年1月11日
  • 読了時間: 3分

クリストファー・プリースト「限りなき夏」(『限りなき夏』国書刊行会、『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』ハヤカワ文庫SF所収)の紹介ページです。

プリーストは英国のSF、ファンタジー系の作家です。

クリストファー・ノーラン監督作品『プレステージ』の原作者でもあります。

(原作タイトルは『奇術師』)

私もまだまだ読み始めたばかりの作家で、あまり作品全体を熟知しているわけではないです。

(本作の翻訳者・古沢嘉通さんの「初心者のためのクリストファー・プリースト入門」と銘打った記事があるので気になったらどうぞ)

上記のサイトでも言及されているのですが、プリーストはあまり本の内容を喋れないという特徴があります。

まあ、狭義の本格ミステリ作家ではなので、幾分ネタが割れたところで驚きが半減するというわけでもないのですが、話の流れに身を任せて楽しむ方が断然面白いです。

本作が収録されている本は、国書刊行会の『限りなき夏』(ハードカバー)、ハヤカワ文庫SF『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』のふたつ。

幸運なことに現在、両方とも新刊書店で手に入ります。

プリーストはどちらかと云えば、と云うよりも確実に「癖のある作家」ですので、合うか分からない作家のハードカバーは中々買えないでしょうから後者をお勧めします。

『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』は、「時間SF」をテーマとしたアンソロジーで、大森望さんが編集だけでなく、一部の本邦初翻訳作品は翻訳もされています。

つまり、各作家の既存の翻訳書から短編を引き抜いてきただけのアンソロジーではなく、(現時点では)本書でしか読めない作品も多々あるのでお得。

なので、まずこちらで本作のみを楽しんでいただくのが良いかと。

ストーリーですが、先述のとおり、あまり多くを話せないのが正直なところ…。

1940年1月、未だ終わらぬ戦争、昼夜を問わず空襲警報が鳴り響くイングランド。

テムズ川に架かった橋の上にトマス・ジェイムズ・ロイドはいた。

彼にしか見えない“凍結者”と、同じく彼にしか見えない活人画(タブロー)によって心かき乱されるのを防ぐため、彼はサングラスを掛ける。

夜と、サングラスをしている間だけは、やつらがいない世界でいられた。

テムズ川沿いの草原に一枚の活人画がある。

そこには、約37年前、当時21歳の彼が恋心抱いていた、ある女性(セイラ)と彼女への愛が今も“凍結”されているのだ。

愛する人を長い間待ち続けた男の決断は、そして、ふたりの愛の行く末は。

はい…、やはり多くは話せない。

本作は、過去と現在が交互に描かれる構成をしています。

最初は“凍結者”だの活人画だのというガジェットの意味が分からないので読みづらく感じますが(わりとSFではよくあるけど)、さすがはプリースト、ロマンチシズム溢れる過去パートを読み進めるうちに、すっかり魅了されてしまいます。

作中、一番好きな文章は、

――セイラの声はかすかだったが、そのことばは静かな部屋で口にされたかのようにはっきりとトマスの耳に届いた。(『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』P.80)

です。

最高のSF作品にして、最高の恋愛小説。

ぜひ、どうぞ。

 
 
 

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