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【海・SF】ネタバレ「限りなき夏」クリストファー・プリースト

  • w-pegana
  • 2016年1月12日
  • 読了時間: 4分

※本ページはネタバレありです!

紹介ページでは、あまり多くを話せなかった本作。

パブで見た活人画からなんとなくの予想は出来るものの、過去パートで実際にロイドとセイラが“凍結”されると、“凍結者”や活人画の役割がはっきりとしてきます。

主人公ロイド(細かいことですが、地の文で「トマス」と呼んでいるところもある)は、1903年の時点で21歳でした。

それから、1935年まで“凍結”されていたので、1940年の時点では26歳くらい。

冒頭で生まれが1881年の60歳に手が届こうとしている年齢だと書いてありますが、これは“凍結”されていなければの話で、実際には20代後半に見られることもしばしばあると書かれています。

伏線というほどのものではないですが、冒頭にしっかりと記述されているのが分かります。

“凍結者”たちの正体ですが、これは誰なんでしょうね(笑)

未来人(タイムトラベラー)なのは確実です。

また、団体で動いていることや、若者の“凍結者”の行為(ドイツ兵を撮影したシーン)を仲間が、怒っているようで同時に誉めていたりすることから、彼らにとって“凍結”とは仕事である可能性もあるのですが、それだと何のために“凍結”しているのかが分からないため、彼らは観光客なんじゃないかなと思います。

過去へ旅行に行き、凍結装置でその時代の印象的な一幕を活人画として“凍結”する。

活人画は、自分やそしてその後訪れるだろう他の“凍結者”たちのための鑑賞物。

上述のドイツ兵が“凍結”されたシーンで、怒ったりしていることから、時間旅行をする際には、なにかしらのガイドラインがあるのだと思います。

“凍結”された人は、その世界から姿を消してしまうため、落下しているパイロットを“凍結”すれば、人間消失としてその時代が騒ぎになります。

こういったことは、一応は禁止されているのではないかと。

“凍結”そのものを曖昧に感じる人もいるかもしれませんが、プリーストの他作品も読む限り、あまりガジェットの仕組みだの何だのというのをこと細かに説明するような作家ではないので、個人的には気になりませんでした。

最後、セイラが一時的に解凍(って呼んでしまいますが)されたのも、良く分かりませんよね。

戦闘機落下での火によるものなのか、ロイドとセイラ(の活人画)を見ていた“凍結者”が一歩前に出たことと関係あるのか。

(後者の場合、“凍結者”は自由に解凍できることになる)

あるいは、2人の愛情によるものなのか、はたまた偶然にもセイラの活人画が腐食しただけか。

個人的には、「“凍結者”解凍説」を採りたいです。

ラストに再会した二人を再び“凍結”しているあたり、本作における“凍結者”はどこまでも利己的な性格が窺えます。

女性一人の活人画よりも、恋人二人の画の方が映えると感じたのではないでしょうか。

しかし、そのおかげもあって、ロイドとセイラは再会し、活人画の中で(半)永久的に共にいることができます。

凍結装置がポータブルカメラのようなものであることから、ウィキペディアでカメラの歴史を見ると、いわゆる今の一眼レフの形のカメラが開発されたのが1920年代あたり。

戦後さらに開発が盛んになったことから、1950年代60年代あたりになると、大衆にも普及し、観光者たちが旅行先でパシャパシャ写真を撮るようになったのだと思います。

プリーストのデビューは1966年。

本作が書かれた具体的な時期は分かりませんが(ハヤカワ文庫SF『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』の著者紹介には、初め本作を収録するはずだったアンソロジーが中々出版されないため、プリーストが業を煮やし作品を引き上げたとのこと。その関係で英国での初出は1976年)、当時の旅行先でプライベートを無遠慮に切り取る観光客を皮肉っているのかもしれません。

つまり、「“凍結者”たち=私たち」なのかも。

こういった問題は、携帯、スマホ、SNSが登場した現在も、芸能人の目撃ツイートなどで未だに残っていますね。

社会風刺的な側面を差し引いても、本作は恋愛小説として素晴らしいです。

必ずしもハッピーエンドとはいえない終わり方ですが、まあ英国らしいといえば英国らしい。

The Smithsの「There Is A Light That Never Goes Out」にも、「たとえ2階建てバスに突っ込まれても、一緒に死ねるなら幸せさ」という歌詞出てきますよね。

ネガティブハッピーとでもいうか、こういうのすごく好きです。

 
 
 

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